働き方改革とは、労働環境改善のために政府が打ち出した一連の法律や政策のことで、慢性化する長時間労働や人口減少による労働者不足、労働生産性の低迷などの問題解決のための取り組み全般を指すものである。 大きく以下の内容である。
1.法改正による時間外労働の上限規制の導入(中小企業は2020年4月1日施行)
労働基準法第32条において、「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)」が定められています。この時間を超えると「法定時間外労働」、つまり時間外労働」となります。 一方で、各企業が就業規則等で定めている「所定労働時間」を超えた時間については、「所定時間外労働時間」といわれます。そして、この「法定時間外労働」と「所定時間外労働」の合計時間を総称して「残業時間」と呼ばれています。 現行の制度では、原則の時間外労働の上限時間は月45時間かつ年360時間(1年単位の変 形労働時間制を適用する場合は、月42時間かつ年320時間)とされており、これを超え る残業は違法となります。 しかし、「36協定」で、臨時的な特別な事情があって労使が合意する(「特別条項付き36協定」を締結する)場合には、この原則の上限時間を超過することができるようになり、この場合、各社の特別条項で定める時間内であれば上限なく時間外労働を行わせることが可能になっていました。 しかし今回の法改正により、罰則付きの時間外労働の上限時間が法律に規定され、さらに特別条項を締結する場合も、「年720時間」という上限規制が設けられることとなりました。 さらに年720時間以内であっても、一時的な繁忙期などにより単月で大幅な時間外労働が発生するリスクを見越して、3つの上限規制が設けられております。
- 単月で月100時間未満とする(休日労働を含む)
- 連続する2カ月から6カ月平均で月80時間以内とする(休日労働を含む)
- 原則で定められている月45時間(変形労働時間制の場合42時間)を上回るのは年間で6回までとする
現行の制度では、単月・年間の時間外労働時間のみの規制でしたが、今回の改正で、さらに2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6カ月平均がすべて1ヶ月あたり80時間以内、月45時間超は年6回までとするなど、年間を通して守るべき上限が追加されております。 また、万が一上限を超えた場合には罰則が設けられており、事業主に対して6ヶ月以下の 懲役または30万円以下の罰金が課せられます。
2.年次有給休暇の取得義務化
有給休暇の消化日数が5日未満の従業員に対しては、企業側が有給休暇の日を指定して有給休暇を取得させる必要があります。 まず、この規定の対象となる従業員は、年10日以上有給休暇の権利がある従業員です。 具体的には、いずれかの従業員です。
- 入社後6か月が経過している正社員またはフルタイムの契約社員
- 入社後6か月が経過している週30時間以上勤務のパート社員
- 入社後3年半以上経過している週4日出勤のパート社員
- 入社後5年半以上経過している週3日出勤のパート社員
正社員やフルタイムの契約社員の場合は、入社後6か月たてば、年10日の有給休暇の権利が発生します(出勤率が8割以上であることが条件です)。 その場合、有給休暇の 消化日数が5日未満であれば、企業側で有給休暇取得日を指定する義務の対象となります。 勤務時間が週30時間以上のパート社員についても同じです。 なお、勤務時間が週30時間未満のパート社員は出勤日数によって、扱いが異なります。 ただし、以下の従業員は指定義務の対象外となります。
- 計画年休制度によりすでに年5日以上の有給休暇を付与しているケース
- 従業員がすでに年5日以上の有給休暇を取得しているケース
3.勤務間インターバル制度の導入促進
勤務間インターバル制度とは、従業員の健康確保とワーク・ライフ・バランス推進のため、勤務終了後、一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保する制度です。制度導入のためには、まずインターバルが取れていない原因、つまり、長時間労働がなぜ起きているのかという原因を探る必要があります。
なお、導入によるメリットは、以下のようなものが挙げられます。
- 一定の休息時間を義務付けることで、従業員の健康管理ができる。
- フレックスタイム制とあわせて導入する場合は、柔軟な働き方ができる。
- 終業時刻や、明日の始業時刻を逆算して働く必要があるため、業務に計画性が生まれる。
- 業務への計画性が求められるため、結果として総労働時間を削減しやすい。
4.フレックスタイム制の見直し
従来のフレックスタイム制度は、清算期間(1ヶ月以内)の総労働時間を定め、その労働時間内で、出勤時間と退勤時間を労働者の意思に委ねる働き方です。
ちなみに、「労働基準法は、労働者の最低限の権利」を定めた法律なので、法定労働時間未満の所定労働時間越えの残業時間全てに残業手当てを付与するかどうかは、経営者の自由とされています。
働き方改革の改正フレックス制度は、フレックスタイム制の方が働き方にマッチしているのに、清算期間が短いために裁量労働制を導入していた企業が多く存在していました。そのような職種にもフレックス制度が導入できるように、清算期間が3ヶ月まで延長されました。
5.高度プロフェッショナル制度の創設
高度プロフェッショナル制度とは、「残業代ゼロ法案」とも「脱時間給制度」や「ホワイトカラー・エグゼンプション」とも呼ばれている制度で、年収1075万円以上の一定の業種の方を労基法による労働時間、休日等の規制の対象から外す(残業代の支払いも不要になる)制度です。
高度プロフェッショナル制度が適用されるためには、下記の条件も必要です。
- 職務の内容が明確に決まっていること
- 労使委員会の5分の4以上の多数決議(労使委員会とは、経営側とその事業所の労働者側の委員で構成される委員会です)
- 行政官庁への届出
- 本人の同意
- 経営者が、その従業員の「在社時間」と「社外で労働した時間」を把握する措置をとっていること
- 1年間で104日以上、4週間で4日以上の休日を付与すること
- 休日や労働時間等に関する下記のいずれかの措置を講じること
i.勤務間インターバル制度、及び深夜労働の回数の上限
ii.「健康管理時間」(=「在社時間」+「社外で労働した時間」)の上限
iii.1年に1回以上、2週間連続の休暇を与えること(有給以外に2週間)
iv.一定範囲の従業員に対する健康診断の実施
8.有給の付与、健康診断の実施等
6.産業医・産業保健機能の強化
労働安全衛生法では、産業医と産業保健についての強化が見直されました。産業医は労働者が健康を確保しなければならないという判断をした際に、企業への勧告が行える権限を持っています。勧告を受けた企業は、産業医の意見を尊重しなければなりません。 法案改正後は、この制度の効力がさらに強化されます。 企業は従業員の労働状況がどのようになっているのかを確認し、長時間労働を行っている従業員がいないかといった情報提供を産業医に行わなければなりません。 産業医から勧告を受けた場合は従業員、企業、産業医で構成する衛生委員会での報告が必要です。衛生委員会ではこの情報提供をもとに、従業員の健康を確保するにはどうしたら良いのかを検討します。 常に50名以上の従業員を抱えている企業では、産業医を選ばなければなりません。50名以下の企業でも、産業医の選出が推奨されております。 今回の改正では、主に企業から産業医への報告義務や産業医からの指導内容の実施などが義務付けられることになっています。働き方改革関連法は、産業医と産業保健の強化がされた形です。